インターネットにおける診療情報流通のための共通フォーマットの検討


高橋 究(佐藤病院・小児科)、山本隆一(大阪医科大学中央検査部病理)、皆川和史(ニコンシステム)、梶原賢一郎(久留米大学)、坂本憲広(九州大学医療情報部)、山崎俊司(千葉大学医学部附属病院医療情報部)、大橋克洋(大橋産科・婦人科)、永田 啓(滋賀医科大学)、大江和彦(東大病院中央医療情報部)、八幡勝也(産業医科大学 作業病態学)、鈴木卓(前田記念腎研究所茂原クリニック)、岩田 稔(富士通)、小山博史(国立がんセンター)、山下芳範(福井医科大学)、森口修逸(リコー)、鈴木淳夫(富士通医療事業部)、札内俊二(富士通南九州エンジニアリング)、廣瀬康行(東京医科歯科・歯)、小嶌興二(小嶌内科)、吉原博幸(宮崎医大医療情報部)

Proposal of a new format for medical communications for use on the Internet

Kiwamu Takahashi, Ryuichi Yamamoto, Kazusi Minagawa, Kenichiro Kajiwara, Norihiro Sakamoto, Shunji Yamasaki, Katsuhiro Ohashi, Satoru Nagata, Kazuhiko Ohe, Katsuya Yahata, Suguru Suzuki, Minoru Iwata, Hiroshi Oyama, Yoshinori Yamashita, Shuitsu Moriguchi, Atsuo Suzuki, Shunji Fudauchi, Yasuyuki Hirose, Koji Kojima and Hiroyuki Yoshihara

Abstract:   The Medical Informatics Electronic Chart Studying Society, which has studied the conditions for the so-called electronic chart, has come to realize the importance of a common format. The MML (Medical markup Language, proposed term) is a kind of tagged format with patient IDs, time of the occurrence of events, medical significance (S. O. A. P, name of disease, and others) symbolized into tags with data described in plain language. Free system construction is allowed in each institution or hospital, and data are converted following the format when information is exchanged through the Internet. Various problems are discussed based on the proposed plan of the MML.

Keywords: electronic patient record, tag formatted medical data, SGML, HTML

1. はじめに
 病院情報システム(以下HIS)の発展に伴い、診療情報の施設間交換に対する要求が高まってきている。しかし現状では、たとえ同じメーカーシステムであっても、バージョンの違いによりデータ交換が困難な場合が多い。この非互換性を打破するために、データ交換のための標準プロトコルを作成することが急務である。このデータ交換のための標準手順は、単に診療データの交換のみに留まらず、研究目的での広域サーベイランスや、保健行政企画立案のためのデータ収集など、幅広い用途が考えられる。本稿では、今後の電子診療録の発展の重要なキーと考えられるデータ交換のための標準プロトコル案について考察する。

2. データ交換標準プロトコルのコンセプト
 データ交換のための標準プロトコル(以下MML: Medical Makup Language)が満たすべき条件とそのゴールは以下のようなものである。
1)現存する全てのシステムで取り扱いが可能なこと
2)可能な限り単純な方法を採用すること
3)特定のハードウェアに依存しないこと
4)すでに稼働しているHISの自由度を阻害しないこと
5)ネットワーク、オフラインメディア等、情報の交換のメディアを特定しないこと

3. MML: Medical Markup Language
 MMLは、医学・医療で使用される言葉や行為(時間、病名、検査、、)を分類しタグを作製し、テキストで表現された診療情報をタグつきの情報として取り扱うことを基本的な考え方とした。これは電子カルテを構造化文書ととらえ、その構造と大まかな意味単位をタグで表現したものと言える。構造化文書の取り扱いについてはすでにSGML(Standard Generalized Markup Language)が国際的(ISO 8879)にも国内的(JIS X4151)にも明確に規格化されていて、MMLもSGMLのDTD(Document Type Definition、文書型定義)で表現可能なように設計している。
 SGMLおよびそのアプリケーションの一つであるHTML(HyperText Markup Language)がシステム間の相違を乗り越えることができたのは、可読文字という、全てのシステムに共通な表記情報を用いてタグを作製し、情報(送りたい内容)の構造化や意味付けに用いた点にある。また、文字情報以外の静止画像、動画像、また構造化文書そのものを外部情報としてリンク可能とし、HTMLではインターネット上の他のサーバー上のファイルとのリンクも可能なように拡張が施されたため、全ての情報を取り扱うことを可能としたわけである。このような考え方はMMLを考え
る上で非常に示唆的であった。
 SGML/HTMLはすでに、多くのプラットフォームで実装されていて、HTMLは通信を経由した情報交換手法も充実している。MMLはSGMLに準拠し、後で示すようにHTMLを意識した仕様をとっているが、この方式を採用することによってMMLは実装が容易になり、情報交換のための仕組みの開発も効率的に行えると考える。さらにSGMLは国際規約であり、多国間での共同開発も容易である。
 MMLでは我々は、医学上使用される概念を大まかに階層的に分類し、必要最低限の概念をタグとし、その概念の集合である実際の診療録を試験的に記述してみた(表1)。HTMLでは希薄な構造化の概念を大幅に取り入れ、データベース化への配慮をおこなっている。

表1 医学タグで表された電子カルテの構造。
   <患者ID>などのタグを標準化しておけば、
   施設によってこの構造は自由に設定できる。  
_________________________________
---------- sample-1 (電子カルテ大構造) -----------
<電子カルテ>
  <患者ID>
  <summary>
    <probrem>
    <病名>
    <保険病名>
  </summary>
  <カルテ用紙>
    <日付>1995.09.06 15:00:00</日付>
    <診療科>内科</診療科>
    <status>ユーザ名・削除マークなど </status>
    <1号用紙>

    </1号用紙>
    <2号用紙>

    </2号用紙>
  </カルテ用紙>
</電子カルテ>

---------- sample-2 (1号用紙)-----------
<1号用紙>
  <患者識別情報>
    <氏名>山田 一郎</氏名>
  </患者識別情報>

  <保険情報>
    <種別>国保</種別>
  </保険情報>
</1号用紙>

---------- sample-3 (2号用紙)-----------
<2号用紙>
  <訴え・現病歴>
  <家族歴>
  <既往歴>
  <所見>
  <treatment>
    <検査>
      <A HREF=検査伝票>生化学</A>
    <処方>
    <手術・処置>
    <その他>
  </treatment>
  <assessment>
  <plan>
</2号用紙 +> 複数可
_________________________________

タグで挟まれるデータについては、以下の様な形式を考えている。

1)単純な数値やフリーテキスト
  例:<氏名>山田 一郎</氏名>
2)機械可読性を考慮した構造形式
  例:<所見>所見名:値,...
3)外部ファイル・データベースへのリンク
  例:<検査><A HREF=検査伝票>生化学</A>(結果伝票ファイルの参照)
    <検査><A HREF="http://www.somewhere/cgi-bin/wine?patientId=03234200">
4)他で使用されているフォーマットへの対応
  例:<現症><HL7_FORMAT>悪心^A09283^0|嘔吐^A019283^1|乳房痛 ^A927837^0</HL7_FORMAT>

 以上述べたようなMMLは基本的には可読文字情報のみで構成され、実装が容易であり、MMLでデータ交換を行えば、どのようなシステム間でも互換性が取れると考えられる。また、図に示すように、MMLは各施設のデータの取り扱いを拘束するものではなく、施設外にデータを吐き出す場合に守るべき規約であるので、既存のソフトウェアの大幅な改変は必要ではない。MMLはデータベース化が容易な構造を持っているが、ローカルなシステムを規定していないので、柔軟な開発が行える。むしろ、おおまかな共通の土俵を与えることによって、標準化を維持した開発競走を促進する効果が期待できる。さらに、非固定長の可読文字情報であるMMLは全体として通常の文書と同様に扱う事が可能である。つまり電子メールなどでも情報交換が可能で、セキュリティ対策も容易と考えられる。


図1 MMLによる診療データの交換。
   各々のシステムの独立性は保証される。


今後必要と思われる開発項目としては、MML規約以外に以下の項目が考えられる。

1)電子カルテを効率的に入力するためのツール
これがエンドユーザの目に見える「電子カルテ」そのものであり、ハードウエアや OS に依存せず、診療分野ごとに色々なバリエーションが有りうる。
2)各施設で電子カルテのデータ管理をするためのシステム(DBMS)
施設の規模その他により色々なものが有りうる。
3)MML で記述されたいろいろなテンプレート
検査伝票・紹介状・退院サマリー・手術記録など。
4)電子カルテを保護するためのセキュリテイー層
5)MML をやりとりするための標準プロトコル(情報のキャリアー)
現状ではHTTPも、その選択枝の一つ。フロッピーディスクなども利用可能である。

4. おわりに
 電子カルテの開発において、現状のHISが陥ってしまったデータ非互換という過ちを2度と犯してはならない。MMLの考え方が電子カルテの今後の開発のベースとなり、自由で柔軟な医療データの互換性を確保した上で電子カルテが開発されて行くことが必要である。現在、MMLはアイデアの段階であるが、電子カルテ研究会では、今後多施設間での実装実験を計画している。